2014年12月16日

“小さな巨人”ジャズ・ピアニスト ミシェル・ペトルチアーニの紹介

さて、先日は『月光条例』について紹介しましたが、
続いてジャズ・ピアニストのミシェル・ペトルチアーニについてもご紹介します。

一般的にはカフェやバーなどで聴く機会が多いのですが、実際に詳しく知っている人はイマイチ少ないジャンルの音楽“ジャズ”。ですので、手っ取り早く「ミシェル・ペトルチアーニはこういう音楽の人なんだ」と知って戴きましょう。



ミシェル・ペトルチアーニはフランスのオランジュ出身のピアニストですが、一目見て分かる通り身体にハンディキャップを負っていました。生まれつき骨が普通の人より脆い「骨形成不全症」という病を患っていました。この病気のため、幼少の頃から骨折を繰り返し背丈も十分に伸びませんでした。身長は1メートルにも届かなかったと言われています。
この病気は心臓や呼吸器系にも負担が大きく、「寿命は20歳程度まで」と宣告されていました。普通の人なら(私は恐らくそうですが)生まれた時からそのようなタイムリミットを告げられれば自暴自棄になってしまったり、陰鬱な性格になりそうなものですが、ペトルチアーニは違いました。
音楽一家に生まれた彼は、レコードを幼い頃から聴き漁り音楽に親しんでいきました。その時にテレビで偉大なジャズ・ピアニスト兼コンポーザーであるデューク・エリントンを観て、強烈に憧れたと言います。
彼はその運命を跳ね飛ばすように努力を重ね、遂に老舗ジャズレーベル「BLUE NOTE」と契約した初めてのフランス人となりました。その後、宣告された寿命より遥かに長い、36歳まで活躍してこの世を去りました。
私は彼の演奏スタイルが非常に好きでして、ビル・エヴァンスを思わせるリリカルで繊細なフレージングかと思えば、オスカー・ピーターソンの様に縦横無尽に飛び跳ねる明るい音色を見せることもあります。
実際にペトルチアーニは非常に明るい人柄で、冗談で人を喜ばすことが好きな性格だったらしく、彼の演奏からはドビュッシー等を思わせる印象的でリリカルな面と、病に苦しみつつもそんな逆境を克服してやるという明るく強い面が演奏に現れていると思うのです。

誰でも自分の限界を思い知り辛い気分を味わう時はあると思いますが、彼の演奏を聴いていると、「そんな下らない悩みなんて何とでもなる!」と思えて仕方が無いのです。
正にジャズ界の“小さな巨人”でありましょう。

michel_petrucciani.jpg

さて、プレゼンで発表した彼の演奏は次の『So What』という曲でして、一応その曲についても簡単に紹介したいと思います。ジャズや音楽理論を全く知らない方が読んでも何となく解る様に紹介しますが、興味の無い方は飛ばして戴いても良いかも知れません。
細かいジャズの歴史は無視するとして、この曲はモード・ジャズというジャンルの音楽です。作曲者は、誰でも名前は聞いたことがあるのではないでしょうか、ジャズ界の“帝王”マイルス・デイヴィス(本人はこの呼び名は嫌っていましたが)です。


モダン・ジャズ史に燦然と輝く大名盤『Kind of Blue』の第1トラックが「So What」です。

「So What」というモード・ジャズの代表曲の特徴について知って戴くには、楽譜を見るのが一番手っ取り早いと思います。以下がコード譜です。

So What - Music Sheet.PNG
「So What」のコード譜。これを基にプレイヤーは即興演奏(アドリブ)を行います。

そう。この曲はたった2つのコードしかありません。即ち“Dm11”“とE♭m11”。これだけでアドリブを取るのはヒジョーに難しいんです。もっと詳しく言えば、ドリアンスケールやトライアド・ペア等の話にいくのですが、やや専門的になるので省略します。ジャズという音楽は乱暴に言ってしまうとUm7-X7-T(ツー・ファイブ・ワン)というコード進行の連続で出来ています。勿論、色んなコード進行はあるものの、ジャズがジャズらしく聞こえる源泉はUm7-X7-Tにあります。Uで始まり、Xで発展して、Tで解決する。3つのコードで一つのお話を作っている様な感覚ですね。
(Uは二度、Xは五度、Tは一度、つまりトニックコードのこと)

マイルスは「複雑なコード進行に則ってアドリブをするのはつまらない」と考え、上記の様に非常にシンプルなコード進行を提唱しました。今回の「So What」ならコードはたった2つですからね。
ジャズを演っている人間なら、“Dm”というコードを観た瞬間、頭の中でマイナー・コードのUm7-X7-Tに変換して演奏してしまいます。(この場合ならEm7(♭5)-A7(♭9)-Dm)
でもそれではモード・ジャズにはなりません。安直に「Um7-X7-T」に解決しない、あいまいな感じ。それがモード・ジャズです。「私はあなたが好きです」と言い切るのではなく、「私はあなたが好きかも?でもそうじゃないかも……」とはぐらかす感じ、と言えば分かり易いでしょうか。
その辺りも意識してペトルチアーニの技巧を楽しんで戴ければと思います。



最後に個人的にお勧めする私のミシェル・ペトルチアーニの愛聴盤も紹介します。
Promenade With Duke - Michel Petrucciani
Promenade With Duke - Michel PetruccianiUltimate - Michel Petrucciani
Ultimate - Michel Petrucciani

ジャズというジャンルの音楽は悲しいことに市場の規模は年々減少しており、基本的にクラシックと同じくらい絶賛値崩れ中のジャンルなので、どんな名盤だろうが大抵は1000円程度で買えちゃいます。ミシェル・ペトルチアーニの音楽にビビッともし来たら是非ご入門ください。
posted by 民朗 at 22:31| 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする