2015年11月10日

民朗の音楽映画ベスト10

既に投票が始まっている、ワッシュさんの毎年恒例企画【音楽映画ベストテン】に今年も参加いたします。以下が私のベストテンです。Podcastで度々お話ししている通り、私は音楽がとても好きでして、音楽映画というジャンルにはやっぱり拘りを持っています。
そんな訳で、今回のベストは結構気合入れて選び抜きました。……でも実際に選んでみたらかなりメジャー作品ばかり、でもどれも本当に本当に愛している作品ばかりです。
それではどうぞ。

1.ウエスト・サイド物語(1961年/監督:ロバート・ワイズ)
2.くちびるに歌を(2014年/監督:三木孝浩)
3.4分間のピアニスト(2006年/監督:クリス・クラウス)
4. 8 Mile(2002年/監督:カーティス・ハンソン)
5.ブルース・ブラザーズ(1980年/監督:ジョン・ランディス)
6.雨に唄えば(1952年/監督:ジーン・ケリー)
7.アマデウス(1984年/監督:ミロス・フォアマン)
8.ブラス!(1996年/監督:マーク・ハーマン)
9.ファンタジア(1940年/監督:ベン・シャープスティーン)
10.屋根の上のバイオリン弾き(1971年/監督:ノーマン・ジュイソン)

次点(おまけ). ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000年/監督:ラース・フォン・トリアー)

選定した理由として、「音楽映画」と銘打っているので、先ず音楽が素晴らしいと思う映画を選びました。ミュージカル、音楽映画では他にも『レ・ミゼラブル』や『オズの魔法使』、『マイ・フェア・レディ』、『メリー・ポピンズ』、『スクール・オブ・ロック』等々、好きな作品は挙げればキリがありませんが、(飽くまで個人的に)歌唱力や演奏力を考慮した結果、選外としました。
それではいかに短評をば。

1.ウエスト・サイド物語(1961年/監督:ロバート・ワイズ)


私の音楽の趣向を決定した作品。そういう意味では最も人生で影響を受けた作品かも知れません。中学生の頃に、名曲『Mambo』のユーアン・レイシーのトランペット・ソロを聴いていなければ、ハイノートプレイヤーに憧れることもなければ、その後ジャズに転向することもなかったでしょう。
また、今でこそミュージカル映画の古典とされていますが、実は、@ダンスが多いミュージカル映画なのに難解な変拍子・目まぐるしい転調が続くL・バーンスタインによるスコア、Aミュージカル映画なのに煌びやかではなく汚い町並みやセット・暗く重いストーリー、Bスター俳優を起用しないキャスティング等々、実にアヴァンギャルドな作品です。嗚呼、何時間でも語りたい!!

2.くちびるに歌を(2014年/監督:三木孝浩)

「人は何のために演奏するのか、演奏すべきなのか」を描き出した傑作。もうね、音楽を演奏している身からすると、「よくぞ仰って下さった!」と叫びなくなる程に感情移入してしまいました。そうだよ、‟誰かの幸せのために演奏したい”んだ!
以前にした批評はコチラ

3.4分間のピアニスト(2006年/監督:クリス・クラウス)

今年話題になった音楽映画『セッション』は「ラスト9分19秒の衝撃!」というフレーズが見られましたが、音楽映画が演奏シーンをハイライトにしていることは良くあることです。その中でも私の最も心に残っているのが、本作の終盤の演奏シーン。
主人公は最後の4分間の演奏に全てを懸ける。その演奏が終われば自分は刑務所に戻らなければいけない(ややネタバレですが主人公は脱獄してピアノコンテストに出場する)。それでも、自分の存在そのものを表現するために演奏するのです。それは誰のためでもない、自分のためだけの演奏です。でも、そういう演奏こそが聴く者の心を鷲掴みにするのだと思います。

4. 8 Mile(2002年/監督:カーティス・ハンソン)

音楽とは反逆の歴史です。確かに美しい旋律で人を幸せにするのも素晴らしい音楽の一面ですが、人が何かに反抗したくなる、メッセージを投げかけたくなる時に、人は声を上げて歌わずにはいられない。白人社会の底辺で暮らす主人公が、自分の声のみで自分の生きる世界と戦う、その格好良さったらない。

5.ブルース・ブラザーズ(1980年/監督:ジョン・ランディス)

最早、伝説と化しているサタデー・ナイト・ライブから発生したバンド「ブルース・ブラザーズ」、その映画化作品。全編に渡り流れるブラックミュージックに否応にもテンションがガン上がりしてしまいます。初めて見たとき「こんな楽しい映画があるのか!」と驚愕しました。今年、リバイバル上映で映画館で観れました。やったー!!

6.雨に唄えば(1952年/監督:ジーン・ケリー)

何かあって落ち込んだ時の対処法、ストレスの解消法は誰しもあると思いますが、私は『雨に唄えば』を観ることがとても多いです。とにかくハッピーな気持ちにさせてくれるロマンチック・コメディの傑作。楽曲良し、ダンス良し、コメディ演出良し、テンポ良し、と正にミュージカルの王道にしてお手本の様な作品。

7.アマデウス(1984年/監督:ミロス・フォアマン)

もう音楽映画の傑作として有名過ぎるので説明不要ですが、モーツァルトとサリエリの確執を描いた重厚な人間ドラマ。サリエリは天上の音楽を求めるも、神は軽薄で下品な性格のモーツァルトに才を与えたもうた。それに対するサリエリの呪詛には共感すると同時に震える。世のすべての凡人にとって福音であり、引導にもなり得る傑作。

8.ブラス!(1996年/監督:マーク・ハーマン)

イギリスの炭鉱夫で構成されるブラスバンドを描いた音楽映画。日本の『フラガール』等、厳しい労働環境で生きる人々が何かに打ち込んで、希望を掴んでいく作品は多いですが、本作が凄いのは音楽の素晴らしさを強く描いておきながら、その素晴らしい演奏であっても暮らしは良くならない、何の解決にもならない、ということを冷酷に示している所だと思います。それでも炭鉱夫たちは最後にエルガーの名曲「威風堂々」を高らかに演奏するのです。数多くの音楽映画の中でも秀でた演奏シーンだと思います。

9.ファンタジア(1940年/監督:ベン・シャープスティーン)

去年の「アニメ映画ベスト」に選んだ時にも書きましたが、昔観た時に余りの音楽とアニメーションの美しさに自然に涙が出てきた経験は今でも忘れません。クラシックとアニメーションの融合はアニメ黎明期から試みられてきましたが(というか昔はクラシックを使うのがスタンダードだった)、本作はその歴史の中でも最高峰の一つだと思っています。

10.屋根の上のバイオリン弾き(1971年/監督:ノーマン・ジュイソン)

各国言語で上演されているミュージカルなので、楽曲が素晴らしいのは当たり前。このミュージカルで美しいなぁと思うのは、その牧歌的で明るい楽曲と、ユダヤ人の苦難の歴史が、不思議と違和感なく同居している所です。戒律が厳しいユダヤ教と、その宗教から若者が離れていく、移り行く時代の流れの哀しみを描いている、普遍的なストーリーも素晴らしい。

次点(おまけ). ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000年/監督:ラース・フォン・トリアー)

泣く泣く10選から外した異色ミュージカル。観た後に落ち込む映画御三家の一つとして有名ですね(他の二つは大抵『ミスト』と『レクイエム・フォー・ドリーム』)。
この映画の音楽の使い方が本当にすごいなと思うのは、主人公が現実から逃避する逃げ場として音楽を使っていることですね。もう、本当に人生のどん底に主人公ははまり込んで行くのですが、それでも主人公には音楽が残っていた、と言うより音楽しか彼女には残っていなかったという皮肉。音楽の素晴らしさと悲しさを同時に描いた作品だと思います。

以上!
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2014年12月28日

民朗が選ぶ2014年新作映画ベスト10

さて、過日に発表した小説ベスト10に続き、今年の新作映画ベスト10を発表します。
選んでみると、全て洋画になってしまった、なんてこった……。一応、言い訳がましく弁解しますと、『紙の月』や『舞妓はレディ』、『思い出のマーニー』等、個人的にすごく良いと思った邦画は多かったんですが、ベスト10となると残念ながら漏れてしまいました。また、特に話題になった『そこのみにて光輝く』、『百円の恋』、『滝を見にいく』等のミニシアター系は香川県ではかからないorかかるのが遅い!地方に住んでいる一番のデメリットはそれですな。その度に岡山県や愛媛県まで遠出するのも大変ですし。単なる愚痴でした、すみません。
以下「映画名」(監督)です。

2014年新作映画ベスト10

10位. ベイマックス(ドン・ホール、 クリス・ウィリアムズ)

男の子の燃える欲望をすべて満たしてくれたアクション・アニメ。「ロケットパンチだー!」「足からジェット噴射だ!」「ヒーロー全員が揃ったときはキメポーズ」と見ていて拍手したくなる程の「監督、分かってるな!」感。兎に角、観ている間、ずっと楽しかった映画です。


9位. ゴーン・ガール(デヴィッド・フィンチャー)

久々に帰ってきたミステリー映画監督としてのデヴィッド・フィンチャー。その語り口は実にスマートで、本来長い筈の上映時間を全く感じさせないものでした。大人向けの映画ですが、いつまでも本当の大人になれない、2人の子ども大人の話であったと思います。しっかし友人の結婚式に出席する1週間前に観るべき映画ではなかった。


8位. メアリーと秘密の王国(クリス・ウェッジ)

個人的な本年のダークホース。監督は『アイスエイジ』のクリス・ウェッジ。『ベイマックス』がマクロな視点のアクションの楽しさを味わわせてくれたアニメだとしたら、ミクロなディテールやアクションの素晴らしさを描いてくれたアニメは本作。「Blue Sky Studio」の映画はもっと大々的に公開してほしいんですが、それなりの規模と期間で公開されたのが残念です。やっぱりこの辺り、ディズニーは宣伝の仕方がダントツに上手いですね。


7位. 少女は自転車にのって(ハイファ・アル=マンスール)

今年は、マララ・ユスフザイさんがノーベル平和賞を受賞しましたが、それを象徴するような力をもった一本。話は「少女が自転車を買って乗るだけ」の映画なのに、そこにはイスラム教圏の女性に対する理不尽が描かれている。サウジアラビアでは女性が乗り物(車)を運転する能力が欠如していると考えられており、自転車を乗るなんて常識では考えられない(近年変わりつつはある)。そんな社会の中でペダルを一生懸命漕ぐ少女の姿が美しいのです。まだまだ世界的規模では性差ミニマリズムは進んでいないなぁと実感する映画でした。


6位. インターステラー(クリストファー・ノーラン)

ノーランなりの『2001年宇宙の旅』の進化版。「気取ってる」とか「焼き直し」「パクリ」とか色々言われていますが、私はヒジョーに好きです。なにより『2001年〜』みたいに難解すぎず、ストレートな人間愛・家族愛・人間賛歌に通じている所が好きですし、興行的に日本でも良い成績を残せた理由だと思います。
私の批評はコチラから。


5位. グレート・ビューティー/追憶のローマ(パオロ・ソレンティーノ)

パオロ・ソレンティーノが描く美のイデアを追い求める旅。オマージュ元はフェリーニの傑作『8 1/2』ですが、彼なりに“究極の美”に対して結論を出しているのが面白い。またその映画の主題に合わせて画面がヒジョーに美しい。こんな美しい、美に関する映画を撮ったら、ソレンティーノは次作何を作るというんだろう。
私の短い批評はコチラから。


4位. ダラス・バイヤーズクラブ(ジャン=マルク・ヴァレ)

ホモフォーブのテキサス・カウボーイがエイズに感染してしまい、治療薬の密輸入売買を始めたのを契機に、嫌悪しているゲイたちと交流していくというヒューマンドラマ。ここまでゲイを嫌悪していて観ていて腹が立つ主人公も珍しいですが、その彼の偏見が氷解していく感動は言葉では言い表せません(語彙力が足りない)。言わずもがな、マシュー・マコノヒーの命を削っている様なアクティングも見所。


3位. LIFE!(ベン・スティラー)

今まで、笑うに笑えないブラック・コメディ映画を監督し続けてきたベン・スティラーが突然変異の様に撮った、ありふれた人のありふれた人生に対する讃歌。ストレートに万人勧められる傑作だったと思います。但し、それだけではなく、「安定を捨て、冒険することの大切さ」をも同時に描いている。
私の批評はコチラから。


2位. ウルフ・オブ・ウォールストリート(マーティン・スコセッシ)

レオナルド・ディカプリオが金の亡者の証券マンを演じた、3時間にも及ぶノンストップ・下品コメディ。彼ら証券マンの乱痴気騒ぎを見ているだけでもすごく面白いのですが(エロもあるし)、それに加えて観客に「君は人を搾取する方に憧れるか?搾取される方に憧れるか?」と突きつける点が優れているかなと。
私の批評はコチラから。


1位. 猿の惑星:新世紀(マット・リーヴス)

これを観るまでは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』がダントツで1位だったのですが、観た後にはこれは1位にしないといけないなと思ってしまった程の傑作でした。
Twitterで私のフォロワーさんのツイートが実に的を得ていて引用させて戴きますが、この映画は謂わば「戦争のレシピ」。しかも厄介なことに、このレシピはどんな食材だろうが、極上の料理に仕上げてしまう万能性を持っている。
そのレシピの内容は至極単純、“他者への無理解・行き違い”です。そして一度、戦争が始まると連鎖的に怒りと憎しみが広がってしまう恐ろしさも描いている。
今年11月に残念ながらお亡くなりになった菅原文太さんは、生前にスピーチで「アメリカにも、良心厚い人々はいます。中国にもいる。韓国にもいる。その良心ある人々は、国が違えど同じ人間だ。みな、手を結び合おうよ」と、お話になっていました。
全ての争いは相手への無理解から始まる、ということを忘れずにいたいものです。すごく難しいことですけど。
私の批評はコチラから。


以下は惜しみつつも選外とした作品です。今年の更新はこれが最後。それでは良い年をお迎えくださいね!

11位. 8月の家族たち(ジョン・ウェルズ)

一家の崩壊を描くトラジェディック・コメディ(悲喜劇)。どんな家族にも恐らくはあるであろう澱、それが家族をどんどん壊していく様が描かれます。余りの悲惨さに笑えると同時に、わが身も振り返ってしまうという面白恐ろしい作品。


12位. 西遊記 はじまりのはじまり(チャウ・シンチー)

チャウ・シンチーによる弩級エンターテイメント。とにかくサービス精神旺盛で、観客を如何に笑わせるか、ドキドキさせるか、怖がらせるかを突き詰めた傑作。これを観た子どもは映画の面白さの原体験としてずっと残る作品になるのではあるまいか。


13位. 抱きしめたい ―真実の物語―(塩田明彦)

本年のダークホースNo.2。あの駄作『どろろ』を撮ってしまった塩田明彦の汚名返上の一作。連続する長回しは、本当のカップルの私生活を本当にドキュメンタリーとして映したかの様なリアルさがあります。北川景子の熱演っぷりが凄まじい。


14位. 太秦ライムライト(落合賢)

京都の時代劇の映画撮影所を舞台に、消え行く時代劇の黄昏と未来への希望を描く。主演は「5万回斬られた男」の異名をもつ斬られ役俳優、福本清三さん。その殺陣(切られる演技を含む)の美しさ、格好よさにしびれる。同時に、近年ちゃんとした時代劇が殆ど大規模に公開されていない現状に戦慄します。来年はもっと時代劇にも足を運ぼうっと。
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2014年12月26日

民朗が選ぶ2014年小説ベストテン

今年も残すところ僅かとなりました。
今年も1年の小説ベスト10を発表します。今年は去年と対照的に海外作品に当たりが多く、大変国外に偏ったランキングになってしまいました。国内にも良い小説はたくさんあったんですけどね……(汗)
以下「タイトル」(原作者)です。
※注意
・新刊の年間ベストではありません。旧作というか古典も含みます。
・あくまで私が1年間に読んだ小説のベストです。お勧め作品くらいのニュアンスで受け取って戴けると良いかと思います。

2014年小説ベスト10

10位.「リア王」(シェイクスピア)

実のところ読んでいなかったシェイクスピアの『リア王』。舞台を見た序に読んでみたのですが凄い舞台劇ですね。『じゃじゃ馬ならし』『真夏の夜の夢』『お気に召すまま』等の喜劇も良く知られる所ですが、四大悲劇の一つである本作はシェイクスピアの暗黒面が爆裂している。人間の底知れない業を見たい方におススメ。

(名句抜粋)
リア:誰でもよい、俺を知っているものはいないのか?この身はリアではない。リアがこんな風に歩くか、こんな風に語るか?目はどこにある?智力が衰えたのか、分別が鈍ってしまったのか― はっ!これでも醒めていると?本当か?誰か教えてくれぬか、この俺が誰かを?
道化:リアの影法師さ!

リア:生まれ落ちるや、誰も大声挙げて泣叫ぶ、阿呆ばかりの大きな舞台に突出されたのが悲しゅうてな。


9位.「イワン・デニーソヴィチの一日」(ソルジェニーツィン)

ロシアのノーベル賞作家・ソルジェニーツィンの代表作。ある収容所に収監されている男・デニーソヴィチの一日が淡々と描写されるが、そこには人間の尊厳が込められている。著者はソ連時代に実際に監獄に入れられていた体験もあり、その描写は実にリアル。一文読んだ途端に極寒の地に放り込まれます。冬に読むのが吉。

(名句抜粋)
熱いものが喉を伝って体内に入っていくと、胃の腑は野菜汁を歓迎して、思わずふるえだす。うむ、うまい!いや、ほかならぬこの一っ時のために、囚人たちは生きているのだ。今やシューホフはどんな事に対しても腹をたてていない。長い刑期に対しても、長い労働の一日に対しても、いや、日曜日がまたつぶれるということに対しても。彼が考えることはただひとつ。堪えぬこう!神さまの思召しですべてが終わりを告げるときまで、耐えぬこう!


8位.「モモ」(ミヒャエル・エンデ)

日本とも縁の深いドイツの童話作家、ミヒャエル・エンデ(奥さんが日本人)。一般的には『ネバー・エンディング・ストーリー(邦題:はてしない物語)』の著者として知られていますが、それと双璧を為す日本での人気を得ているのが本作です。
作品の根底に流れる物質文明への批判は鋭く、児童文学でありながら大人が読んでも考えさせらる内容です。

(名句抜粋)
「これであなたは、時間貯蓄者組合の新しい会員になられたわけです。あなたはいまや、ほんとうに現代的、進歩的な人間のなかまに入られたのです、フージーさん。おめでとう!」

子どもに時間を節約させるのは、ほかの人間の場合よりはるかにむずかしい。



余談ですが、年末に参加した「文芸ジャンキー・パラダイス」のオフ会で、エンデの詩集を紹介されている方がいて、帰宅後速攻で注文し今読んでいるのですが、こちらも傑作です。日本では全集でしか読めないみたいなのが残念ですが。

装丁がかわいい


7位.「長距離走者の孤独」(アラン・シリトー)

50年代に巻き起こったムーブメント“怒れる若者たち”の作家の一人、アラン・シリトー。このムーブメントの他の作家は所謂坊ちゃんが多かったのに対し、彼は貧しい家庭に生まれ、幼い頃から自転車工場で働いていた。その文章からは体制に対する不信や怒り、そしてそんな体制に取り込まれて堪るか!という明確な意思が感じられます。

(名句抜粋)
政府の戦争はおれの戦いじゃない。おれには何の関係もないことなんだ、なぜならおれの気になるのは、おれ自身の戦いだけだからだ。

おれはただ、有法者たちや太鼓腹野郎たちに対して、ちょっとばかし復讐してやりたいだけなんだ。あのでっかいいきな座席で背伸びさせ、おれがこのレースに負けるとこを見せつけてやりたいんだ、もっともこれに負けたりすりゃ、刑期のあけるまでまちがいなく、汚いくそだめ掃除や台所仕事をおっつけられるだろうとわかっていたが。おれなんか、ここのどいつにとっても、ビタ一文の値打ちもありゃしないんだ、そしてそれが、おれの知っている唯一の方法で誠実になろうとして得る感謝のすべてなんだ。



トニー・リチャードソン監督による映画化作品もまた素晴らしいです。


6位.「闇の公子」(タニス・リー)

「ダーク・ファンタジーの女王」、「現代のシェヘラザード」の異名を持つタニス・リー。その耽美的な語り口は唯一無比。本作は闇の公子、地底の魔の王、アズュラーンが数々の人間を誘惑し誑かして破滅させる様子が延々と綴られます。しかし、その一遍一遍に一瞬垣間見える人間賛歌、その美しさに感動してしまいます。普段気が付かない微かな光でも、周りが果てしない闇の場合は眩く映るのでしょう。少しやおいな描写もあるので、苦手な方はやや注意を。

(名句抜粋)
不思議な富の全てにもかかわらず、地底の永遠の王国にもかかわらず、アズュラーンにとり無くてはならぬものが一つある。その一つとは人間である。
「我らは貴方がたの玩具、貴方がたの娯楽」カジールは告げた。
「貴方がたは常に我らがもとに戻り、我らが栄光を地に落とし、罠にかけては暗黒の笑いを発する。地上に人間なくば、妖魔にとり、妖魔の王にとり、時の流れはいかにも緩慢なものとなろう」

「また、そなたの売物は夢、以前には用のなかった私だが、今こそ夢が必要なのだ。すべてが幸せに、あるいはせめて正義が行われて終わる物語が聞きたい。そのような話を知っておるか?」



5位.「悪童日記」(アゴタ・クリストフ)【再読】

ハンガリーのブダペスト近郊をモデルにして二人の双子の生活を自伝的に描く異色作。この作品は謂わば大人のための道徳の書とでも言いましょうか。大人になるにしたがって無意識に育まれる道徳性、それを周囲に一切流されることのない主人公が次々と覆していきます。この小説がすごいのは、全編一人称複数(ぼくら)で書かれており、なおかつ感情を表す文が一切ないこと。つまり「うれしかった」とか「かなしかった」とかは全くない。それなのにこんなに悲しい物語が書けるとは!

(名句抜粋)
帰路、ぼくらは道端に生い茂る草むらの中に、林檎とビスケットとチョコレートと硬貨を投げ捨てる。髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。

「それなら、<十戒>を知っているわけだね。戒めを守っているかね?」
「いいえ、司祭さん。ぼくたちは戒めを守りはしません。第一、戒めを守っている人なんて、いやしませんよ。『汝、殺す勿れ』って書かれていますが、その実、誰もが殺すんです」


続編である『ふたりの証拠』『第三の嘘』もそれぞれが“人間のアイデンティティ”に迫る傑作ですが、アゴタ・クリストフの代表作としてはどうしても本作を推してしまいます。



映画化作品が今年公開されました(それを知って久しぶりに読み直した)。香川では来年2月に公開される予定なので楽しみです。


4位.「トーク・レディオ」(スティーブン・シンギュラー)

オリバー・ストーンの傑作『トーク・レディオ』の原作本。と言いつつ原案本に近く、内容は一人のラジオパーソナリティ殺人事件をルポしたノン・フィクションです。ユダヤ人のラジオパーソナリティ、アラン・バーグを憎むネオナチグループ、白人至上主義者、反ユダヤ人主義者たちが如何に集まり、殺人計画を練っていったかが詳細に描かれています。
また、間に挟まれるアラン・バーグの舌鋒鋭いラジオトークが大変正論で面白いのですが、そんなことを喋っただけで命を狙われるという恐ろしさよ。

(名句抜粋)
バーグ「ただね、ユダヤ人だって彼らなりの差別意識や偏見はあるんだ……人間は誰だってみんなそうさ。自分のことばかり目がいくもんだから、自分とちがうものが理解できなくなる。ちがうってことが怖いんだな。本当はちがいから学べることのほうが多いのに……」

バーグ「こう言わなくちゃまずいんじゃないかと思って言ってるような話は聞きたくない。「ホモがいても別にいいと思います」なんて言うなよ。本気でそう思ってる人間はまずいないんだから。時代は変わったんです、黒人やユダヤ人を嫌ってはいけません―くだらないね。」



勿論、映画も大プッシュの傑作


3位.「LAヴァイス」(トマス・ピンチョン)

おそらく世界で一番有名な覆面作家、トマス・ピンチョン。ピンチョン作品と言えば、真っ先に「難解」「意味が解らない」と言われることが多いですが、本作はピンチョン作品にしては大変読み易い作品になっているので、大変おススメです。内容はハードボイルド探偵小説。ピンチョン作品に共通する「社会の裏側に隠されているコミュニティーに主人公が迷い込んでいく」という展開もありますが、探偵小説として上手く機能しているので読み難さは殆どありません。

(名句抜粋)
作品の持つ雰囲気、全部。

来年には鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督による映画化作品も公開予定。超楽しみ!噂では次回作は『重力の虹』の映画化を企画しているとか……正気か!?



2位.「時計じかけのオレンジ」(アントニイ・バージェス)

自分のオールタイムベスト1位の映画にも関わらず原作を読んでいなかった作品。遂に読みましたが、こりゃー凄い。ウルトラ暴力の奔走にテンションはキメキメ、恐ろしいのはそんな暴力が後半で政府にスポイルされる状況が本当にディストピア的に描かれること。
キューブリック版では削除された最終章が収録されている新訳版で読みましたが、個人的にはこの最終章には“賛”です。キューブリックが信じきれなかった人間の善性を微かに肯定しているように見えるから。

(名句抜粋)
人々が善良だということが、その人々が善良を好むということだとすると、おれは絶対にその楽しみを妨害しようなどとは思わないし、また同じことが反対側の場合にもいえる。そして、おれはその反対側を支持しているのだ。

「おれは、おれは、おれのことは、おれのことはどうなんだ?この中でいったい、このおれはどうなるんだ?おれは犬か畜生みたいじゃないか?」
そうすると、みんなは大きな声で話しはじめ、おれに向かってもスロボ(ことば)を投げつけるんだ。それで、おれはもっとでかい声でわめいた―
「まるで、このおれは時計じかけのオレンジみたいじゃないか?」



1位.「隣の家の少女」(ジャック・ケッチャム)

あのホラーの帝王、スティーブン・キングに絶賛された(結構なんでも絶賛しているとは言ってはいけない)カルトホラー小説。少年の近くに引っ越してきた美しい少女にはある秘密があった……、これ以上はとても言えません。
まず、娘さんがいらっしゃる親御さんには絶対に勧められません。止めておきましょう。女性の方にも出来ればおススメしません。それ以外の人にも陰惨な話が苦手な人は読まない方が無難です。
それでも、この世の地獄を覗き見たい人がいれば、その地獄の窯の蓋を開けてみては如何でしょうか?

(名句抜粋)
そうさ、あなたのためにこれを書いてるんだよ、ルース。なにしろ、あなたには一度もお返しをしなかったからね、
要するに、これはわたしの小切手なのさ。期限を過ぎてるし、借り越しになってるけどね。
地獄で現金化するんだな。

わたしはそれ以来、自問しつづけている。いつそうなったのだろう?いったいぜんたい、わたしはいつ堕落したのだろう?そしてつねに、まさにこの瞬間にもどりつづけている。その思いに。
力の感覚に。



余談ですが、私が今年読んで、今読むべきor読んで良かったと思ったおススメ本も以下にご紹介。
1.「9条どうでしょう」(内田樹 ほか)

内田樹さん、平川克美さん、町山智浩さん、小田嶋隆さんらによる共作。題名の通り、憲法第9条に関して、氏ら独特の切り口で論を進めていく。

2.「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」(ネイサン・イングランダー)

題名だけ見ると、なんだか説教くさいような小説の気がしますが、その予想は恐らく外れます。表題作は、今現在、ホロコーストが起きると隣人はアンネを守ってくれるのか?そして、ユダヤ人は守る側になれるのか?という問題を描いています。著者は元々敬虔なユダヤ教徒だったが、後に棄教した。

3.「自閉症の僕が跳びはねる理由」(東田直樹)

「文ジャン」のカジポンさんにおススメされた一冊。自閉症は症状にかなり広くバンドがありますが、この本の著者である東田さんは意志の疎通がかなり難しいレベルの自閉症を負っています。しかし彼は訓練を続けてパソコンを使って執筆ができる様になりました。私たちが普段知ることのない、しかし街中では偶に目にする自閉症の方々の考えていること、がこの本には非常に誠実に書かれています。
この本は映画『クラウド・アトラス』の著者であるデヴィッド・ミッチェルさんにより、『The Reason I Jump』として翻訳され海外でも大変高い評価を得ています。翻訳本の序文によれば、デヴィッド・ミッチェルさんにも自閉症の息子がおり、奥さんが買ってきたこの本に大変勇気づけられたとか。


ミッチェルさんの序文に只々感動。自閉症について、学術書でもなく、自閉症患者の親からの目線でもなく、自閉症患者自身が書いたことだから、大変心救われたんだとか。

大変長くなってしまいました。来年の皆さまの読書の一助になれば幸いです。
年内に映画のベスト10も発表します!
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