2016年12月28日

民朗が選ぶ2016年小説ベストテン

今年も残りわずかとなりましたね。
もう映画のベスト10に先立ち、今年も小説ベスト10を発表します。
今年はとにかくある大作に手を出したが為に、トータルで読んだ作品数は非常に減りました。ついに念願の文庫化された『ノートル=ダム・ド・パリ』は来年読みたいですね。
以下「タイトル」(著者)です。

※注意
・新刊の年間ベストではありません。旧作というか古典も含みます。
・小説としていますが、ノンフィクション作品も含みます。
・あくまで私が1年間に読んだ小説のベストです。お勧め作品くらいのニュアンスで受け取って戴けると良いかと思います。


2016年小説ベスト10


10位.「そういうふうにできている」(さくらももこ)

「ちびまるこちゃん」の作者として、また爆笑エッセイストとしても著名なさくらももこ氏の出産エッセイ。なんとなく手に取ってみた作品でしたが、期待を一切裏切らず面白い面白い。作者の人格が伝わってくる筆致は見事なもんです。そして当たり前ですが、出産とは何とまあ大変な一大事なのかと再確認しました。


9位.「ハリー・ポッターと呪いの子」(J.K.ローリング、ジョン・ティファニー&ジャック・ソーン)

映画「ファンタビ」の公開で再度ブームが巻き起こっている「ハリポタ」シリーズの正統的な続編。ハリー・ポッターと闇の帝王・ヴォルデモートの戦いから19年後の物語。主役はハリーから息子のアルバスへと移り、アルバスは偉大な父親への劣等感に悩まされ、思わぬ事態に巻き込まれることになる。
舞台劇ならではの仕掛けが多く、劇だと面白さも上がると思われるので、いつかは舞台版を鑑賞したいですね。シリーズのファンへのサービスが非常に必然性ある形で沢山入っている点も好印象。世界的ヒット作の続編ということで流石の完成度でした。
(名句抜粋)
スコーピウスはスネイプに微笑みかけ、決然と吸魂鬼から離れる。
スコーピウス:世界は変わる。僕たちもそれと一緒に変わる。僕はこっちの世界のほうが、うまくやっている。しかし、こっちの世界は、よりよい世界ではない。こんな世界なら僕は欲しくない。



8位.「旅のラゴス」(筒井康隆)

SF作家の大御所による近年の大ヒット作品。ラゴスという男が、不思議な世界を巡り、不思議な出来事に遭遇する様を、ユーモラスかつ寂寥感たっぷりに綴る。
本来、壮大なスケールになるであろう物語なのに、どこか軽く感じられるのは、作者が持つ軽妙な語り口に由来しているのでしょう。旅のお供に最適の書。
(名句抜粋)
かくも厖大(ぼうだい)な歴史の時間に比べればおれの一生の時間など焦ろうが怠けようがどうせ微微たるものに過ぎないことが、おれにはわかってきたからである。人間はただその一生のうち、自分に最も適していて最もやりたいと思うことに可能な限りの時間を充てさえすればそれでいい筈だ。


7位.「You Will Not Have My Hate」(Antoine Leiris)

皆さんも記憶に新しいでしょう、2015年のパリに起きた凄惨な同時多発テロ事件。ISILによる無差別殺人により130人もの尊い命が奪われました。著者のAntoine Leirisさんはコンサートに出かけた妻をこの事件により永遠に失いました。僅か生後11カ月の一人息子を残して。
それでも事件後、残された息子のために、テロ事件を起こした犯人、またその指導者・グループを憎まないと決めた心の内が、日記の形式で詳細に語られています。自らを復讐者にするのではなく、未来を生きることに意識を向ける、その決断の重さ、そして決断を下した時の筆舌を尽くしがたい苦悩が胸を打ちます。

(名句抜粋)
On Friday night, you stole the life of an exceptional being, the love of my life, the mother of my son, but you will not have my hate.
(中略)
So, no, I will not give you the satisfaction of hating you. That is what you want, but to respond to your hate with anger would be to yield to the same ignorance that made you what you are. You want me to be scare, to see my fellow citizens through suspicious eyes, to sacrifice my freedom for security. You have failed. I will not change.



6位.「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ)【再読】

テレビでドラマ版が放送されていたのを何気なく観たら、懐かしくなったので再読。奇妙でノスタルジックな味わいに定評のあるカズオ・イシグロの代表作。生きている筈の若者なのにどこか死のにおいが充満していて、それでも自身の存在を精いっぱい生きようとする姿は、やるせない読後感を残してくれます。

(名句抜粋)
それじゃチェスの駒と同じだと思っているのでしょう。確かに、そういうふうに見えるかもしれません。でも、考えてみて。あなた方は駒だとしても幸運な駒ですよ。追い風が吹くかに見えた時期もありましたが、それは去りました。世の中とは、ときにそうしたものです。受け入れなければね。人の考えや感情はあちらに行き、こちらに戻り、変わります。あなた方は、変化する流れの中のいまに生まれたということです。

おれはな、よく川の中の二人を考える。どこかにある川で、すごく流れが速いんだ。で、その水の中に二人がいる。互いに相手にしがみついている。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。おれたちって、それと同じだろ?残念だよ、キャス。だって、おれたちは最初から―ずっと昔から―愛し合ってたんだから。けど、最後はな……永遠に一緒ってわけにはいかん。



5位.「怒り」(吉田修一)

「愛する人をどこまで信じることが出来るのか」、そして信じてしまったが故に、もしくは信じられなかったが為に愛が崩壊する様を、四つの舞台に分けて描く。一つ一つの物語の分量はさほどでも無いのに、そのどれも結末に胸が締め付けられるのは、同一のテーマを上手く並列させてクライマックスに収斂させているからでしょう。

(名句抜粋)
もしかすると直人が言うように、「俺はお前を疑っている」と疑っている奴に言うのは、「俺はお前を信じている」と告白しているのと同じことなのかもしれない。

自分が愛した男をこれから連れて帰ると愛子が言っている。洋平が必死に守ってきた娘が、自分の愛する人をこれから守ると言っている。



4位.「たんぽぽ娘」(ロバード・F・ヤング)

伝説的なSF短編小説家、ロバート・F・ヤングの短編集。全作品を包み込んでいるのは、郷愁や寂寥感、そしてどこか爽やかな読後感。その寂しくも、決して重くなく、さっぱりした雰囲気は、万人に薦められる内容です。どの作品も甲乙つけがたいですが、敢えて、選ぶとしたら「河を下る旅」「たんぽぽ娘」がお薦め。どちらも一種、時空を超えた愛を描いており、例えば今年公開された映画『君の名は。』が好きな人は、お気に召すかと思います。

(名句抜粋)
生きるとは数知れぬ小さな物事から成っており、そうした小さな物事の集積が愛であり、その愛のかたわらでは、おなじく生をかたちづくるゴミは見分けがたい塵へと落ちぶれるのだ。

おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた。



3位.「Wonder」(R. J. Palacio)

なんか久々に洋書を読みたくなったので、リハビリを兼ねて児童書から。各方面で話題になっている作品なので読んだ方も多いと思いますが、これがまあ実に完成度が高いです。
顔に生まれつき重度の障がい(便宜上こう書きます)を持っている少年、オーガストが学校に入学し、酷いイジメを受けながらも、友人や家族に助けられ、またある時は助け、成長していく様を瑞々しいタッチで描いた小説です。
特筆すべきは、「きれいごと」で済ましていないこと。障がいを持つオーガストを単なる可哀そうな少年・無垢な天使ではなく生きた一個人として描いています。そして彼の顔を見て驚き、恐れてしまう一般の人たちを糾弾せず、違いがあってもお互いに歩み寄れば、素晴らしい関係が築けることの尊さを説いています。非常に道徳的な内容なので、お子さんがいらっしゃる方は、冬休みの読書感想文の課題にいかが?
映画ファンとしては、障がいはともかくオーガストは単なる『スター・ウォーズ』好きの映画小僧なので親近感が湧きまくりでした。(彼はハロウィーンにボバ・フェットの仮装をするくらいのスター・ウォーズ・ファン)

(名句抜粋)
WHO WE ARE!
“Who we are.” he said, underlining each word as he said it.
“Who we are! Us! Right? What kind of people are we? What kind of person are you? Isn’t that the most important thing of all? Isn’t that the kind of question we should be asking ourselves all the time?”
What kind of person am I?



2位.「地獄の機械」(ジャン・コクトー)

以前から読みたくて堪らなかったが、どうしても古書が見つからなかった作品。日本で有数の蔵書量を誇る岡山県立図書館で見つけた時は、マジで叫び声を上げる寸前でした。本当に凄いです、岡山県立図書館。岡山にお立ち寄りの際は是非。
コクトーが古代ギリシャの古典的悲劇『オイディプス王』を話の筋はそのままにアレンジを加えた作品。終盤の劇的な展開がよりドラマチックになっていたり、スフィンクスとオイディプス王の関係性がより深いものになっていたり、注目点は多数。何より、コクトーの美文で『オイディプス王』が読めるのだ!

(名句抜粋)
見物の人よ、見るがよい、一杯に巻かれて、さながら人の一生の間ゆるやかにほどけていくぜんまいにも似て、神神の構築した最も完璧な地獄の機械の一つを。その目的とするところはただ、死すべき人間の数学的なまでに緻密な破壊である。


1位.「ジャン・クリストフ」(ロマン・ローラン)

『ジャン・クリストフ』は人生
いきなり随分古いパロディをかましてしまいましたが、これはマジ。本作には人生のすべてが詰まっています。久々に自身のオールタイムベストを更新しました。余りにも素晴らしかったので、別枠で紹介記事を作りましたので、よろしければどうぞ。

(名句抜粋)
紹介記事を参照下さい。


次点(ワースト?)
以下は色々と心を掴まれる瞬間はあったものの、ベストには選出できなかった作品。まあワーストと言っても差し支えないかも知れません。参考までに。

「何者」(朝井リョウ)

いつの時代にも普遍的な”自尊心”というテーマを、Twitterという現代ツールを上手く絡めて描く。問題は普遍的なテーマであるのに、Twitterの仕組みを理解していないと、恐らく話の内容を理解し難く、極端に読み手が制限されること。そして作者は読者を、主人公が終盤に見せるある”振る舞い”に衝撃を与えたい様に作られているにもかかわらず、それまでの主人公の描写を見るに、その振る舞いも「その位、してそうだよね」って感想しか抱けないこと。もう少し踏み切った驚きが欲しかった。想像の上をいってくれないのだ。

「楽園のカンヴァス」(原田マハ)

話題作だし、ルソーの画が表紙というのが印象的だったので読んでみました。異色の画家・ルソーの実人生を作中作という形で描くのは面白いが、作中で展開する謎解きがノーヒントなので全く面白くなく、登場人物たちの関係・苦悩も陳腐と言う他ない。これなら作中作だけ、「事実を基にしたフィクションです」とでも書いて、単品として出した方がスッキリしていたのではないかと思える。最初に提示される女主人公の葛藤が、ラストで適当に解決してしまう展開には、あまりの投げやりっぷりに失望してしまった。

「本日は、お日柄もよく」(原田マハ)

一作品だけで判断するのは早計と、一応手に取ってみた氏の最大のヒット作。エモーションを嫌と云う程に引き立てる作風は、まあ悪い意味で見事と言えるのですが、スピーチライターを目指す主人公の物語に、国政選挙が絡んできて、更に二大広告代理店(完全に○通と○報堂がモデル)が絡んでくるので、どこか終始冷めた視点で読まざるを得ませんでした。
だって、広告代理店の仕事とか、国会議員の仕事とかを背景に、スピーチで人心を巧みに動かし、感動させるスピーチのすごさを語るって、正直普通に怖いのですが……。
ものすごく正直な感動作を読みたい人にはおすすめの一作です。残念ながら私は二度とこの作者の作品を手に取ることはないでしょう。

明日は映画のベスト10を更新する予定です。(こちらは新作のみ)
posted by 民朗 at 20:54| ランキング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする