2014年12月26日

民朗が選ぶ2014年小説ベストテン

今年も残すところ僅かとなりました。
今年も1年の小説ベスト10を発表します。今年は去年と対照的に海外作品に当たりが多く、大変国外に偏ったランキングになってしまいました。国内にも良い小説はたくさんあったんですけどね……(汗)
以下「タイトル」(原作者)です。
※注意
・新刊の年間ベストではありません。旧作というか古典も含みます。
・あくまで私が1年間に読んだ小説のベストです。お勧め作品くらいのニュアンスで受け取って戴けると良いかと思います。

2014年小説ベスト10

10位.「リア王」(シェイクスピア)

実のところ読んでいなかったシェイクスピアの『リア王』。舞台を見た序に読んでみたのですが凄い舞台劇ですね。『じゃじゃ馬ならし』『真夏の夜の夢』『お気に召すまま』等の喜劇も良く知られる所ですが、四大悲劇の一つである本作はシェイクスピアの暗黒面が爆裂している。人間の底知れない業を見たい方におススメ。

(名句抜粋)
リア:誰でもよい、俺を知っているものはいないのか?この身はリアではない。リアがこんな風に歩くか、こんな風に語るか?目はどこにある?智力が衰えたのか、分別が鈍ってしまったのか― はっ!これでも醒めていると?本当か?誰か教えてくれぬか、この俺が誰かを?
道化:リアの影法師さ!

リア:生まれ落ちるや、誰も大声挙げて泣叫ぶ、阿呆ばかりの大きな舞台に突出されたのが悲しゅうてな。


9位.「イワン・デニーソヴィチの一日」(ソルジェニーツィン)

ロシアのノーベル賞作家・ソルジェニーツィンの代表作。ある収容所に収監されている男・デニーソヴィチの一日が淡々と描写されるが、そこには人間の尊厳が込められている。著者はソ連時代に実際に監獄に入れられていた体験もあり、その描写は実にリアル。一文読んだ途端に極寒の地に放り込まれます。冬に読むのが吉。

(名句抜粋)
熱いものが喉を伝って体内に入っていくと、胃の腑は野菜汁を歓迎して、思わずふるえだす。うむ、うまい!いや、ほかならぬこの一っ時のために、囚人たちは生きているのだ。今やシューホフはどんな事に対しても腹をたてていない。長い刑期に対しても、長い労働の一日に対しても、いや、日曜日がまたつぶれるということに対しても。彼が考えることはただひとつ。堪えぬこう!神さまの思召しですべてが終わりを告げるときまで、耐えぬこう!


8位.「モモ」(ミヒャエル・エンデ)

日本とも縁の深いドイツの童話作家、ミヒャエル・エンデ(奥さんが日本人)。一般的には『ネバー・エンディング・ストーリー(邦題:はてしない物語)』の著者として知られていますが、それと双璧を為す日本での人気を得ているのが本作です。
作品の根底に流れる物質文明への批判は鋭く、児童文学でありながら大人が読んでも考えさせらる内容です。

(名句抜粋)
「これであなたは、時間貯蓄者組合の新しい会員になられたわけです。あなたはいまや、ほんとうに現代的、進歩的な人間のなかまに入られたのです、フージーさん。おめでとう!」

子どもに時間を節約させるのは、ほかの人間の場合よりはるかにむずかしい。



余談ですが、年末に参加した「文芸ジャンキー・パラダイス」のオフ会で、エンデの詩集を紹介されている方がいて、帰宅後速攻で注文し今読んでいるのですが、こちらも傑作です。日本では全集でしか読めないみたいなのが残念ですが。

装丁がかわいい


7位.「長距離走者の孤独」(アラン・シリトー)

50年代に巻き起こったムーブメント“怒れる若者たち”の作家の一人、アラン・シリトー。このムーブメントの他の作家は所謂坊ちゃんが多かったのに対し、彼は貧しい家庭に生まれ、幼い頃から自転車工場で働いていた。その文章からは体制に対する不信や怒り、そしてそんな体制に取り込まれて堪るか!という明確な意思が感じられます。

(名句抜粋)
政府の戦争はおれの戦いじゃない。おれには何の関係もないことなんだ、なぜならおれの気になるのは、おれ自身の戦いだけだからだ。

おれはただ、有法者たちや太鼓腹野郎たちに対して、ちょっとばかし復讐してやりたいだけなんだ。あのでっかいいきな座席で背伸びさせ、おれがこのレースに負けるとこを見せつけてやりたいんだ、もっともこれに負けたりすりゃ、刑期のあけるまでまちがいなく、汚いくそだめ掃除や台所仕事をおっつけられるだろうとわかっていたが。おれなんか、ここのどいつにとっても、ビタ一文の値打ちもありゃしないんだ、そしてそれが、おれの知っている唯一の方法で誠実になろうとして得る感謝のすべてなんだ。



トニー・リチャードソン監督による映画化作品もまた素晴らしいです。


6位.「闇の公子」(タニス・リー)

「ダーク・ファンタジーの女王」、「現代のシェヘラザード」の異名を持つタニス・リー。その耽美的な語り口は唯一無比。本作は闇の公子、地底の魔の王、アズュラーンが数々の人間を誘惑し誑かして破滅させる様子が延々と綴られます。しかし、その一遍一遍に一瞬垣間見える人間賛歌、その美しさに感動してしまいます。普段気が付かない微かな光でも、周りが果てしない闇の場合は眩く映るのでしょう。少しやおいな描写もあるので、苦手な方はやや注意を。

(名句抜粋)
不思議な富の全てにもかかわらず、地底の永遠の王国にもかかわらず、アズュラーンにとり無くてはならぬものが一つある。その一つとは人間である。
「我らは貴方がたの玩具、貴方がたの娯楽」カジールは告げた。
「貴方がたは常に我らがもとに戻り、我らが栄光を地に落とし、罠にかけては暗黒の笑いを発する。地上に人間なくば、妖魔にとり、妖魔の王にとり、時の流れはいかにも緩慢なものとなろう」

「また、そなたの売物は夢、以前には用のなかった私だが、今こそ夢が必要なのだ。すべてが幸せに、あるいはせめて正義が行われて終わる物語が聞きたい。そのような話を知っておるか?」



5位.「悪童日記」(アゴタ・クリストフ)【再読】

ハンガリーのブダペスト近郊をモデルにして二人の双子の生活を自伝的に描く異色作。この作品は謂わば大人のための道徳の書とでも言いましょうか。大人になるにしたがって無意識に育まれる道徳性、それを周囲に一切流されることのない主人公が次々と覆していきます。この小説がすごいのは、全編一人称複数(ぼくら)で書かれており、なおかつ感情を表す文が一切ないこと。つまり「うれしかった」とか「かなしかった」とかは全くない。それなのにこんなに悲しい物語が書けるとは!

(名句抜粋)
帰路、ぼくらは道端に生い茂る草むらの中に、林檎とビスケットとチョコレートと硬貨を投げ捨てる。髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。

「それなら、<十戒>を知っているわけだね。戒めを守っているかね?」
「いいえ、司祭さん。ぼくたちは戒めを守りはしません。第一、戒めを守っている人なんて、いやしませんよ。『汝、殺す勿れ』って書かれていますが、その実、誰もが殺すんです」


続編である『ふたりの証拠』『第三の嘘』もそれぞれが“人間のアイデンティティ”に迫る傑作ですが、アゴタ・クリストフの代表作としてはどうしても本作を推してしまいます。



映画化作品が今年公開されました(それを知って久しぶりに読み直した)。香川では来年2月に公開される予定なので楽しみです。


4位.「トーク・レディオ」(スティーブン・シンギュラー)

オリバー・ストーンの傑作『トーク・レディオ』の原作本。と言いつつ原案本に近く、内容は一人のラジオパーソナリティ殺人事件をルポしたノン・フィクションです。ユダヤ人のラジオパーソナリティ、アラン・バーグを憎むネオナチグループ、白人至上主義者、反ユダヤ人主義者たちが如何に集まり、殺人計画を練っていったかが詳細に描かれています。
また、間に挟まれるアラン・バーグの舌鋒鋭いラジオトークが大変正論で面白いのですが、そんなことを喋っただけで命を狙われるという恐ろしさよ。

(名句抜粋)
バーグ「ただね、ユダヤ人だって彼らなりの差別意識や偏見はあるんだ……人間は誰だってみんなそうさ。自分のことばかり目がいくもんだから、自分とちがうものが理解できなくなる。ちがうってことが怖いんだな。本当はちがいから学べることのほうが多いのに……」

バーグ「こう言わなくちゃまずいんじゃないかと思って言ってるような話は聞きたくない。「ホモがいても別にいいと思います」なんて言うなよ。本気でそう思ってる人間はまずいないんだから。時代は変わったんです、黒人やユダヤ人を嫌ってはいけません―くだらないね。」



勿論、映画も大プッシュの傑作


3位.「LAヴァイス」(トマス・ピンチョン)

おそらく世界で一番有名な覆面作家、トマス・ピンチョン。ピンチョン作品と言えば、真っ先に「難解」「意味が解らない」と言われることが多いですが、本作はピンチョン作品にしては大変読み易い作品になっているので、大変おススメです。内容はハードボイルド探偵小説。ピンチョン作品に共通する「社会の裏側に隠されているコミュニティーに主人公が迷い込んでいく」という展開もありますが、探偵小説として上手く機能しているので読み難さは殆どありません。

(名句抜粋)
作品の持つ雰囲気、全部。

来年には鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督による映画化作品も公開予定。超楽しみ!噂では次回作は『重力の虹』の映画化を企画しているとか……正気か!?



2位.「時計じかけのオレンジ」(アントニイ・バージェス)

自分のオールタイムベスト1位の映画にも関わらず原作を読んでいなかった作品。遂に読みましたが、こりゃー凄い。ウルトラ暴力の奔走にテンションはキメキメ、恐ろしいのはそんな暴力が後半で政府にスポイルされる状況が本当にディストピア的に描かれること。
キューブリック版では削除された最終章が収録されている新訳版で読みましたが、個人的にはこの最終章には“賛”です。キューブリックが信じきれなかった人間の善性を微かに肯定しているように見えるから。

(名句抜粋)
人々が善良だということが、その人々が善良を好むということだとすると、おれは絶対にその楽しみを妨害しようなどとは思わないし、また同じことが反対側の場合にもいえる。そして、おれはその反対側を支持しているのだ。

「おれは、おれは、おれのことは、おれのことはどうなんだ?この中でいったい、このおれはどうなるんだ?おれは犬か畜生みたいじゃないか?」
そうすると、みんなは大きな声で話しはじめ、おれに向かってもスロボ(ことば)を投げつけるんだ。それで、おれはもっとでかい声でわめいた―
「まるで、このおれは時計じかけのオレンジみたいじゃないか?」



1位.「隣の家の少女」(ジャック・ケッチャム)

あのホラーの帝王、スティーブン・キングに絶賛された(結構なんでも絶賛しているとは言ってはいけない)カルトホラー小説。少年の近くに引っ越してきた美しい少女にはある秘密があった……、これ以上はとても言えません。
まず、娘さんがいらっしゃる親御さんには絶対に勧められません。止めておきましょう。女性の方にも出来ればおススメしません。それ以外の人にも陰惨な話が苦手な人は読まない方が無難です。
それでも、この世の地獄を覗き見たい人がいれば、その地獄の窯の蓋を開けてみては如何でしょうか?

(名句抜粋)
そうさ、あなたのためにこれを書いてるんだよ、ルース。なにしろ、あなたには一度もお返しをしなかったからね、
要するに、これはわたしの小切手なのさ。期限を過ぎてるし、借り越しになってるけどね。
地獄で現金化するんだな。

わたしはそれ以来、自問しつづけている。いつそうなったのだろう?いったいぜんたい、わたしはいつ堕落したのだろう?そしてつねに、まさにこの瞬間にもどりつづけている。その思いに。
力の感覚に。



余談ですが、私が今年読んで、今読むべきor読んで良かったと思ったおススメ本も以下にご紹介。
1.「9条どうでしょう」(内田樹 ほか)

内田樹さん、平川克美さん、町山智浩さん、小田嶋隆さんらによる共作。題名の通り、憲法第9条に関して、氏ら独特の切り口で論を進めていく。

2.「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」(ネイサン・イングランダー)

題名だけ見ると、なんだか説教くさいような小説の気がしますが、その予想は恐らく外れます。表題作は、今現在、ホロコーストが起きると隣人はアンネを守ってくれるのか?そして、ユダヤ人は守る側になれるのか?という問題を描いています。著者は元々敬虔なユダヤ教徒だったが、後に棄教した。

3.「自閉症の僕が跳びはねる理由」(東田直樹)

「文ジャン」のカジポンさんにおススメされた一冊。自閉症は症状にかなり広くバンドがありますが、この本の著者である東田さんは意志の疎通がかなり難しいレベルの自閉症を負っています。しかし彼は訓練を続けてパソコンを使って執筆ができる様になりました。私たちが普段知ることのない、しかし街中では偶に目にする自閉症の方々の考えていること、がこの本には非常に誠実に書かれています。
この本は映画『クラウド・アトラス』の著者であるデヴィッド・ミッチェルさんにより、『The Reason I Jump』として翻訳され海外でも大変高い評価を得ています。翻訳本の序文によれば、デヴィッド・ミッチェルさんにも自閉症の息子がおり、奥さんが買ってきたこの本に大変勇気づけられたとか。


ミッチェルさんの序文に只々感動。自閉症について、学術書でもなく、自閉症患者の親からの目線でもなく、自閉症患者自身が書いたことだから、大変心救われたんだとか。

大変長くなってしまいました。来年の皆さまの読書の一助になれば幸いです。
年内に映画のベスト10も発表します!


posted by 民朗 at 23:45| ランキング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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